[00:00.50]「彼女こそ……私のエリスなのだろうか……」[00:10.00][00:15.00][00:35.00][00:40.00][00:50.00]主よ、私は人間(ひと)を殺めました。[00:54.00]私は、この手で大切な女性を殺めました。[00:57.50][01:02.00]思えば私は、幼い時分より酷く臆病な性格でした。[01:08.00]他人というものが、私には何だかとても恐ろしく思えたのです。[01:12.50][01:13.00]私が認識している世界と、他人が認識している世界。[01:18.00]私が感じている感覚と、他人が感じている感覚。[01:22.50][01:23.50]『違う』ということは、私にとって耐え難い恐怖でした。[01:28.50]それがいづれ『拒絶』に繋がるということを、無意識の内に知っていたからです。[01:34.00][01:34.50]楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろしく思えました。[01:39.50]私には判らなかったのです、他人に合わせる為の笑い方が。[01:45.00][01:45.50]いっそ空気になれたら素敵なのにと、いつも口を閉ざしていました。[01:51.00]そんな私に初めて声を掛けてくれたのが、彼女だったのです。[01:55.50][01:56.00]美しい少女(ひと)でした、優しい少女(ひと)でした。[02:01.00]月のように柔らかな微笑みが、印象的な少女でした。[02:05.50][02:06.50]最初こそ途惑いはしましたが、私はすぐに彼女が好きになりました。[02:12.50]私は彼女との長い交わりの中から、多くを学びました。[02:17.50][02:18.00]『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ。[02:23.00]大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと。[02:28.00]しかし、ある一点において、私と彼女は『違い過ぎて』いたのです。[02:32.50][02:33.50]狂おしい愛欲の焔が、身を灼く苦しみを知りました。[02:38.00]もう自分ではどうする事も出来ない程、私は『彼女を愛してしまっていた』のです。[02:43.50][02:44.50]私は勇気を振り絞り、想いの全てを告白しました。[02:49.50]しかし、私の想いは彼女に『拒絶』されてしましました。[02:54.50]その時の彼女の言葉は、とても哀しいものでした。[02:59.50]その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』と知りました。[03:04.00][03:05.00]そこから先の記憶は、不思議と客観的なものでした。[03:09.50]泣きながら逃げてゆく彼女を、私が追い駆けていました。[03:14.50]縺れ合うように石畳を転がる、《性的倒錯性歪曲》(Baroque)の乙女達。[03:19.00]愛を呪いながら、石段を転がり落ちてゆきました……[03:24.50][03:25.00]この歪な心は、この歪な貝殻は、[03:29.50]私の紅い真珠は歪んでいるのでしょうか?[03:32.50][03:34.50]誰も赦しが欲しくて告白している訳ではないのです。[03:39.50]この罪こそが、私と彼女を繋ぐ絆なのですから。[03:44.50]この罪だけは、神にさえも赦させはしない……[03:48.00][03:48.50]「ならば私が赦そう…」[03:50.50][03:51.50]歪んだ真珠の乙女、歪なる日に死す……(Baroque Vierge' Baroque zi le fine……)[03:51.75][03:52.00]——激しい雷鳴 浮かび上がる人影[03:57.00]いつの間にか祭壇の奥には『仮面の男』が立っていた——[04:01.25][04:01.50]歪んだ真珠の乙女、歪なる日に死す……(Baroque Vierge' Baroque zi le fine……)